玉浦西災害公営住宅B-1地区

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 2016年4月14日に、熊本県、大分県を中心に震度7を記録する地震が起こって以降、それに匹敵する大きな揺れが続いた。熊本地震である。

 奇しくもその揺れの続く4月19日に開催されたのが、建築家フォーラム第149回「地方での小さな設計活動と、被災地から考える建築家の役割」。東日本大震災で被災した宮城県を拠点に、建築家として数々の個性的な住宅を設計し、震災後は東北地方の復興に尽力してきた都市計画設計集団/UAPP代表、手島浩之氏の登壇だ。

 手島氏は1997年に山本理顕設計工場を独立した後から、宮城県仙台市で住宅を中心に小規模な建築の設計活動に取り組んできた。特に、東日本大震災前までは住宅など小規模建築の設計に力を入れていた。

 2009年、日本建築家協会第4回で受賞したのは「囲い庭に埋もれる平屋」。古い住宅地での建て替え計画だ。周辺に平屋の借地が立ち並ぶ敷地で、いわば大きな箱をつくってプライバシーを確保しながら、その内側に中庭と大きな開口部を設けて、十分な採光と通風を得た。室内中央に入れ子のように箱状のプライベートスペースをつくり、床に適宜レベル差を設けることで、内部空間の広がりと生活上のゾーニングを両立させている。

 そのほか、敷地の木々を伐採することなく木々を縫うように母屋や離れを配置した「森を奔る回廊」、中庭を挟むように三角形の2棟を組み合わせ、プライバシーと室内の開放感を確保した「△の住宅」など、いずれの作品も住宅としての快適さと個性を併せ持つ設計が特徴だ。

 そうした中、震災の約2年前、手島氏が40歳に入るころに自分の設計活動を振り返る機会があった。当時は、事務所で設計に没頭し、結果的にあまり外に出ず人付き合いも少ない状況だった。周囲からも、人付き合いを広げたほうがいい、住宅だけでなく公共建築も手掛けたほうがいいというアドバイスを受け、徐々にその方向に舵を切り始めたという。

 その矢先、2011年3月11日に東日本大震災が起こる。手島氏は即座に建築家として東北地方の復興に尽力することを決意。これ以降、必然的に外に出る機会が劇的に増え、建築関係者、行政関係者、大学関係者、被災地の住民など多くの人たちとのネットワークを築くこととなった。被災地支援という形で、公共建築にも多く関わり始める。

 特に、矢継ぎ早に降りかかってくるであろう復興事業に少しでも住民の意思を反映させ、住民主体のまちづくりを実現するために、景観への配慮のみならず、相互見守りや、地域住民による自立した地域運営を視野に入れた“復興まちづくり”にも取り組んだ。復興後も見据えて、土木造成、まちづくり、建築、完成後の運営や福祉までを一体的につなぐ包括支援も配慮したという。

 たとえば、2011年年6月からは石巻市北上町の復興支援に関わり、高台移転の住宅再建に向けて動き始めた。国の復興方針が固まった10月以降には住民の個別ヒアリング、融資説明会、ワークショップなどを実施するとともに、高台で搬出土量を削減した合理的な造成および住宅再建を目指す方針を固めた。町の中心部のまちづくり=新古里(にっこり)団地のまちづくり支援に参画。自立再建住宅、災害公営住宅のほか公共施設を取り入れるなど、多岐にわたる意見・要望をまとめ上げるとともに、入居後には震災前からの共同体を基盤に住民自らがまちを管理運営する組織づくりも支援した。

 また、2012年8月からは地域型復興住宅を企画する、宮城県岩沼市の「岩沼モデルハウスプロジェクト」にやはりJIA宮城地域会の一員として参画した。地域型復興住宅とは、地域の中小工務店が地域産の木材を使用して建てる、地域風土に根付いた自力再建を目指す復興住宅である。また、計画そのものも計画プロセスも、住民主導、コミュニティ重視を前提に円滑に計画を進行し、「復興のトップランナー」と称される岩沼市玉浦西地区での災害公営住宅整備では、今後の住民の暮らしやすさを配慮し、バリアフリー動線や歩行者ネットワークによる見守りを災害公営住宅の仕組みの中に取り入れる設計を行った。

 2013年ごろからは、現場の復興の動きを広く伝えるため、シンポジウムやフォーラムを開催するという活動の新たなフェーズに入った。並行して、個性的な住宅の設計にもあらためて力を入れた。現在の設計のテーマのひとつは「屋根」だ。これは若かりし頃に師匠である建築家の山本理顕氏から与えられたテーマではないかとの古谷誠章氏の指摘もあった。当時は計画を超える論理をどう構築するか分からず間を置いたが、あらためて取り組むつもりだ。

 手島氏が40歳のころに意識した設計活動の範囲は、東日本大震災という大きな刺激を受けて、今後もますます広がっていきそうだ。

                                    (介川 亜紀)



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