後藤寺さくらマンション リファイニング後外観
(撮影:イメージグラム)

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 建築家フォーラム第147回(2016年1月19日)は、建築家・青木茂氏が登壇した。青木氏は、世間の目が改修に向くはるか以前から既存建築の再生に取り組み、“リファイニング建築”を提唱する。その原点は、1978年のヨーロッパ旅行にあるそうだ。カルロ・スカルパが改修を手掛けたカステル・ヴェッキオ美術館に触発された。

 実際に改修設計を手掛ける機会は、それから10年後に訪れた。かつての海軍施設を資料館にリニューアルする仕事だ。改修費はわずか1500万円だったが、「おもしろい」と手応えを感じたという。さらに10年後、宿泊施設を庁舎に改築する『宇目町役場庁舎』のコンペに当選。ここで「減量して(荷重を減らして)筋トレする(補強する)」ファイニング建築の基本を確立し、『建築のリサイクル』1999年)と題した本を出版した。

 その10年後、高齢者施設『後藤寺さくらマンション』のリファイニングに立ちふさがった課題は、既存の設計図書や確認済証の不備だ。建設時は適法だったことを証明した上で、公的補助の要件を満たす大規模増改築を行わなければならない。そのため、実測・コンクリート調査・鉄筋の非破壊検査・基礎の掘り起こし・耐震診断を行って復元図を作成した。ちょうど建築界が耐震偽装問題に揺れた時期でもあり「今までで一番難しい仕事だった」と青木氏は振り返る。

 次なる課題は“住みながら”“使いながら”工事を進める手法だ。「これができれば既存建築の問題解決は大きく前進するはず」と青木氏は言う。賃貸マンション『光第6ビル』では事前に入居者アンケートを採り、棟内や他物件への住み替えなど選択肢を用意した。3期に分けて“住みながら”工事を実施。3期工事の途中で1~2期分の改修済み住戸が満室になる成果を得た。

 賃貸マンションを分譲マンションにリファイニングした『千駄ヶ谷 緑苑ハウス』では、事業者・ユーザー共に融資を受けられるようにする必要があった。一般的には築43年の建物に担保価値はないが、耐震補強の上、第三者機関による推定耐用年数50年の判定を取得。「フラット35」の条件も満たし、全戸完売した。 『浜松サーラ』は旧耐震だっただけでなく、軽量コンクリートの計画が実際には普通コンクリートにすり替えられていた。そこで、構造家・金箱温春氏と議論を重ね、建物の外側から鉄骨ブレースをリボンの用に巻き付ける、斬新な耐震補強法を編み出した。“構造がすなわちデザインになる”好例だ。

 青木氏が「やっとスカルパの夢が実現できた」と語るのが、2005年の『佐伯市蒲江海の資料館“時間の船”』。廃校になった小学校の体育館を外側からすっぽり覆って潮風から守る一方で、内部はほぼそのまま残し、床だけを挿入することで新たな空間をつくり出している。 近作の『北九州市立戸畑図書館』は1933年に建設された歴史的建造物のリファイニング。外観は変えられないため、建物の内側で耐震補強を図った。室内に現れる力強いスチールフレームは、製鉄の町として発展した北九州の歴史を象徴する。

 青木氏は“リフォーム”や“リノベーション”と“リファイニング”の違いは、耐震補強と法的根拠の確立にあるという。リファイニングはより費用がかかるが、資産価値を高め、次の改修までの期間が長い。「30年後にもう一度リファイニングすれば、建物の寿命はさらに30年伸び、全部で120年と、ヨーロッパ並みになる」と青木氏。次の世代のために、建物の補修か所を細かく記録した“家歴書”の作成も怠りない。「目指すは長寿命建築。それは時間をデザインすることだ」と青木氏。建築の過去に刻まれた時間と真摯に向き合ってきたからこそ、将来に向かっての“時間のデザイン”も可能になるのだろう。

                                    (萩原詩子)



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