没後50年「写真家としてのル・コルビュジエ」展/
早稲田大学會津八一記念博物館にて

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 2015年最後の建築家フォーラム(第146回、12月15日)は、当フォーラムの代表幹事である古谷誠章氏と、早稲田大学研究室で古谷氏と協働する藤井由理氏によるクロストーク。

 早稲田大学には以前から、設計実務の傍ら教鞭を執るプロフェッサー・アーキテクトが多いという。その伝統を継ぐ古谷氏と藤井氏が、大学における研究活動と自らの仕事との関わりを語った。

 古谷氏は、学生とともに提案した近年のプロジェクトを紹介。そのひとつが、5つの大学が連携して、千葉・鋸南町に実現させた「道の駅 保田小学校」だ。近隣の既存施設と相互補完しながら「海、まち、山を結び、地域に新たな生業を生み出す」役割を目指し、元小学校の体育館を市場に、校舎を宿泊施設や食堂に生まれ変わらせた。

 古谷研究室には、「学校」「医療施設」「地域再生」「木造木質」など多様なテーマのゼミがある。それぞれが研究実績を元に、実際にプロポーザルに参加し、成果を世に問うているのが特徴だ。実現した例に「学校」ゼミによる群馬「桜山小学校」、「木造木質」ゼミによる熊本「山鹿小学校」がある。

 前者はゼミのテーマでもある「異年齢の子供の交流」を目的としたオープンスタイルの校舎で、学生たちが児童・教員・保護者とのワークショップを重ねてつくりあげた。後者は木の構造の間にコンクリートのコアを挟むことによって法の制限をクリアし、構造上のメリットも得る研究成果で大規模木造建築を実現した。

 ほか、古谷研究室は東日本大震災の復興支援や過疎地域の活性化などでも成果を挙げている。教育であると同時に社会還元でもある、その活動の幅の広さに驚かされた。

 一方の藤井由理氏は数学科出身で、その後建築学科で建築史を学んだ理論派の建築家だ。古谷氏のNASCAおよびダニエル・リベスキンド事務所に在籍した経験を持つ。古谷研究室では作家論を担当。この日は、学生の研究成果と自らの作品を横断しながら紹介した。

 古谷研究室では、長くジョン・ヘイダックやカルロ・スカルパ、菊竹清訓などの作家研究を続けている。藤井氏が加わったことで、リベスキンドに関心を持つ学生が参加したり、ル・コルビュジエ研究がスタートしたりと、新たな展開があるようだ。成果の中には、早稲田大学會津八一記念博物館における「写真家としてのル・コルビュジエ」展、近現代建築資料館における「アーカイブにみる菊竹清訓展」などの展示として発表したものもある。「展示空間をどのようにつくり、社会に伝えるか。その方法論も建築に通じる」と藤井氏は言う。

 自作では、保育園のインテリア2作と、同じ‘セリー’というコンセプトに基づいて設計した2軒の住宅「新宮島邸」「服部邸」を取り上げた。幾何学的な形の壁がつくるレイヤーによって空間に領域とつながりを生む試みだ。「壁そのものよりも、それがつくる〝間〟を意識してデザインした」と藤井氏。

 藤井氏の語りでは「理論」と同時に「身体」という言葉が頻出したことが印象に残った。作家論では、建築家の作品や言説の研究に加えて、模型をつくったり実測したりという「身体的行為」を通じて先人の理論を体験的に学ぶ。理論に基づいてつくる建築が目指すのも、「人間が身体的にかかわれる空間」だという。

 締めくくりの対談で古谷氏は、ヘイダックが自らの建築を「端緒」と位置付けたという逸話を取り上げ、「詩の言葉のように糸口だけがつくられ、あとは受けとめる側の理解に委ねられる」と解説。「一方、スカルパは既存のものと新しいものを融合し、さらに、人が使う間に変化していく、その未来をも受容する。一見正反対のように見えるヘイダックとスカルパは、そのオープンエンドな考え方において共通しているのではないか」と語った。

 「作家論の中に未来への答えがある。先人たちが考えてきたことを共有し、実現することも大事」と古谷氏。さらに、個人の寿命を超えて存在し続ける建築には「そこにあることで意図や契機、端緒が伝わるという働きがあるのではないか」と結んだ。今回のテーマ「建築のミライ、社会の未来」が腑に落ちた瞬間だった。

                                    (萩原詩子)



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