星のや竹富島
(撮影:ナカサアンドパートナーズ)

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 第145回建築家フォーラム(2015年11月17日開催)では、建築家の東利恵氏が星野リゾートのリゾート建築を中心に近作を語った。星野リゾートを率いる星野佳路代表と東氏は、1980年代半ばに留学していた米国コーネル大学時代以来の友人だ。帰国後しばらくたったある時、宿泊施設内の家具についてコーディネートの相談を受けたのが、東氏が星野リゾートの仕事を手掛けるきっかけとなった。

 その後は軽井沢・星野エリアの敷地内に、立ち寄り湯の「トンボの湯」(2002年竣工)、宿泊施設の「ホテルブレストンコート」(1995年~)と「星のや軽井沢」(2005年)、商業施設の「ハルニレテラス」(2009年)を相次いで設計した。いずれもランドスケースデザインのオンサイトと協働し、施設周りの風景全体をつくり上げた。

 例えば、谷に立地する「星のや軽井沢」では、路地でつないだ客室棟を高低差のある敷地に点在させた。客室棟はRC造の1階部分に3室、木造の2階部分に2室という構成を1つのユニットとし、水辺を巡るように配置した。「敷地は森に囲まれていたが、風景としてこれといった特徴はない。そこで、池と建築によって『谷の集落』という新しい風景を生み出した」と東氏は振り返る。 「星のや軽井沢」開業以降、星野リゾートは国内のその他地域で積極的にホテル運営を展開し始めた。東氏は、そのなかでポイントになる建築をいくつか担当している。 2009年に完成した「星のや京都」は、「日本の伝統文化」というテーマの下、嵐山に面した既存旅館を改修した事例だ。それまでに使われていた新建材を取り払ったうえで、京唐紙や襖を取り入れつつ、畳に座椅子ソファを置いたモダンな空間に仕上げた。

 沖縄県八重山郡の「星のや竹富島」(2012年)では、南入りの配置や北に防風林を構える構成など、地元に残る集落の形態を受け継いだ。独立して並べた各客室棟は「グック」と呼ばれる石垣で取り囲み、魔除けを兼ねる石積みの壁「ヒンプン」を配した。

 2015年秋に開業した「星のや富士」は、アウトドアをテーマにした日本初のグランピングリゾートだ。「軽井沢とは対照的に、ここには富士山という存在感をもつ風景がある。それをどう切り取るかを考えた」と話す東氏は、客室に入るまで視界を閉ざし、入室した瞬間に大きな開口を通して富士山の絶景が目に飛び込むように空間を構成した。

 このほか東氏は、集合住宅の「亀甲新」(2014年)や東日本大震災の被災地に完成した商業施設「シーパルピア女川」(2015年)などについて語り、多彩な事例の話を締めくくった。

 質疑のコーナーでは、リゾートの設計で「非日常を生み出すことと常識にとらわれないこと」を重視していると話した。「以前、星野代表に言われた『来館者の思い出になることが大事』という言葉を常に意識している」、「父の設計した『塔の家』で育った経験を通し、多くの人が考える『スタンダード』に疑いを抱くようになった。例えば、『都市ホテルとはこういうもの』といった常識にとらわれずに発想していくことが大切」と東氏は言う。国広ジョージ氏(企画・進行)が「プロであるクライアントとの付き合いも巧みな建築家」と評したのにふさわしく、実績を通した東氏の話は説得力をもって聞き手に届いた。

                                   (守山 久子)



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