中国木材名古屋事業所(撮影:坂口裕康)

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 第143回建築家フォーラム(2015月9月24日)の講師は、2015年日本建築学会賞に輝いた福島加津也氏と冨永祥子氏(福島加津也+冨永祥子建築設計事務所共同代表)、聞き手は手塚貴晴氏(東京都市大学建築学科教授)が担当した。講演冒頭、作家・村上春樹の言葉を参照して「つくりたい思いがあってもつくるべきものがないとき、何をつくるか」という問いを掲げ、自らの建築観から語り始めた

 建築は人間がつくるものの中で最も規模が大きく、歴史が長く、文化を超えて世界中に遍在するという特徴を持つ。その大きさゆえに、どんな単純な形をつくるにも、複雑な技術と多くの人を必要とする。人ひとりのスケールをはるかに超えるため「感覚で建築を理解することは難しい」と福島氏は言う。

 では、何をもって建築の良し悪しを判断するか。福島氏は「合理的なものは美しい」というモダニズムの原則を大前提としつつ、世の中には合理から逸脱する美もあり、建築には両者が混在する、と語る。

 合理とは原理に合わせることであり、原理には見えるものと見えないものがある。常識や習慣、美の概念は後者だ。例えば、初期の自動車のデザインは無意識のうちに馬車の形態を引きずっていた。こうした、自らを縛る「見えないルール(既成概念)」を自覚し、突破したい、と福島氏は言う。「自動車が馬車の形態から抜け出す契機はレースだった。速さのみを競うという技術的な制約が、見えないルールを更新させた」。

 福島・冨永両氏のデビュー作「中国木材名古屋事業所」のコンペには、施主から与えられた「技術的な制約」があった。自社製品である小断面の木材を使って大規模建築をつくるという制約だ。木材は大量に使えるが、普通に接合すると金物も大量に必要になる。そこで、金物の接合部のない木構造を開発しようと着想した。断面120×150mm、長さ3mの木材136本に5本のワイヤーを通してつなぎ、幅3m長さ17mの板を製作。これを11枚並べて吊るすことで、美しいカーブを描く大屋根をつくり、巨大な無柱空間を実現した。

 学会賞を受賞した対の建築「木の構築-工学院大学弓道場・ボクシング場」も、新たな木構造に挑んだ作品だ。ここでも施主から国産材の使用を求められ、設計段階から木材業者と対話した。そこで要請された「技術的な制約」が、コストの安い小断面材と食害のある120mm角材の活用だった。

 弓道場・ボクシング場ともに7.2×10.8mの無柱空間。4間×6間に相当し、ちょうどお堂のようなスケールだ。冨永氏は「日本建築の伝統に則り、斜材を用いないこと。匠の技ではなく、誰にでもできる日常的な技術で建てることを共通ルールとした」と解説する。弓道場は古民家のイメージを下敷きに、細い材をビスで接合した格子フレーム。ボクシング場は短い食害材を重ね合わせてボルトで締め、寺院建築のような架構をつくり上げた。

 冒頭の問いに対する答えを一言でまとめるなら「つくることをつくる」ということになるのだろうか。福島氏は次のように締めくくった。「完成した空間が美しければそれでいい。しかし、素材や道具、技術から考えることで、空間は確実に新鮮になる。われわれが目指すのは、目的と手段を一体化すること。つくることを永遠化する。完成後もつくり続けられる、使う人もつくることに参加できるような空間をつくりたい」
                                      (萩原 詩子)



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