写真:DAICI ANO
建物鳥瞰 重なり合うウェーブが見える

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 第136回の建築家フォーラムでは、2人の話を聞いた。1人は内外の設計コンペでの活躍が注目されている建築家、伊藤麻理氏(UAo代表)。もう1人は伊藤氏の近作で構造を担当する金箱温春氏だ。

 講演は「建築とランドスケープの融合」と題する伊藤氏の話の間に、「ランドスケープ的建築の構造」という金箱氏の話を挿入する形で行われた。 話題の中心は、2014年3月に全面開業した「サイエンスヒルズこまつ」(石川県小松市)。2011年に実施された公開プロポーザル競技で、伊藤氏は以前勤めていたスタジオ建築計画と共同参加して当選した。

 建物は、平面計画上4列の帯で構成される屋根が上下にうねりながら延び、山の起伏のような空間を生み出しているのが特徴だ。屋上の一部を緑化して歩行路を設け、内部空間には多様な開口部からアクセスできるようにした。遠方にそびえる白山や近接する森と視覚的につながった、公園のような建築を目指したという。 設計過程では、プロポーザル案から様々な変更が生じた。設計契約後、計画地内に埋蔵文化財が発見され、当初予定していた柱状改良をベタ基礎に変えた。基本設計開始後、プロポーザル時には不要とされていた約90台の市営駐車場をつくることになった。プロポーザル案では3つに分けていたホールを2つにまとめ、多目的利用できるようにと求められた。さらにメンテナンス面などの要請から、屋上緑化の面積を当初の3分の1に減らした。

 スケジュールも厳しかった。基本設計から実施設計までの時間はわずか6カ月。もともと有機的な形状で複雑な計画だったうえに、複数の変更に対応しなければならなかった。しかし、「とにかく実績が欲しかった」という伊藤氏の一念が、計画を実現へと結びつける。3DモデリングソフトRhinocerosの活用によるデザイン検討と作図の省力化や、若い5人のスタッフと共に設計期間中ほぼ合宿状態だったという総力戦で、厳しいスケジュールを乗り切った。

 そんな伊藤氏を「良い意味でアグレッシブ、かつ最後は緻密」と評する金箱氏は、構造面で計画を支えた。「有機的で不定形な建物」を実現するために、「湾曲した屋根面を幾何学的な三次曲面に置き換える。シェル構造にこだわらず、RC造のドームやフラットスラブと鉄骨柱など応力に即した構造で屋根を支持する」といった工夫を講じた。「施工の難しさもあり、設計者が信念を持って取り組まなければ実現できなかった」と金箱氏は総括する。

 伊藤氏はその後、ハンガリーのブダペストにおける美術館の国際コンペでも2次選出されている。同コンペ案も、サイエンスヒルズこまつの発展形ともいうべき建築の公園化を提案したものだ。「現在は技術上どのような形でもつくれるだけに、何をつくるのかを我々は問われている。公園のような建築にこだわるのは、人が自然とインタラクティブに交わる空間をつくりたいから。楽しくずっといたくなる建築の提供を目指したい」と伊藤氏は話す。

 フォーラムの翌朝、伊藤氏と事務所スタッフはブダペストのコンペ発表会へと飛んだ。そのコンペでは残念ながら当選には至らなかったが、次の挑戦にも注目したい。
                                    (守山 久子)



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