茅野駅のホームから見た茅野市民館

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第41回建築家フォーラムは、会場を長野県茅野市に移し、久しぶりに見学会を兼ねた講演会を開いた。テーマは「地域と協働して人々の交流の駅をつくる」。今回のフォーラムの企画者である古谷誠章氏(NASCA代表、早稲田大教授)の設計で、完成間近の「茅野市民館」を見学したあと、行政アドバイザーとして市民館の計画づくりに携わった倉田直道氏(工学院大学教授)と古谷氏が講演をした。

茅野市民館は、市民参加型の公共施設づくりのモデルとして注目されてきた。そこで重要な役割を果たしたのが茅野市の行政アドバイザーであると同時に、設計者選定プロポーザルの審査委員も務めた倉田氏である。倉田氏は、市民館の計画がどのように進められたかを詳細に報告した。

市民館の構想がスタートしたのは1999年から。既存の市民会館を建替えようというものだが、そのとき矢崎和広市長から相談を受けたのが、倉田氏がこの計画にかかわる出発点となる。

矢崎市長が建替えに際してテーマに掲げたのは「中心市街地の活性化」だった。すなわち新しい施設の建設によって、求心力を失っている駅前地区を元気付ける、それによって再び人々が集って賑わい、交流できる場に再生しようというわけである。

「計画は、市民との協働で進めること、市民とのパートナーシップを大切にする」
矢崎市長がもう一つ重視したのがこの点だった。行政アドバイザーに就いた倉田氏は、こう助言する。

「市民に参加していただき計画を進めていきましょう。単に建替えの計画だけでなく、運営にも参加していただく。そんなプロセスを考えましょう」

「よし、わかった」。市長のゴーサインを受けて、さっそく「茅野市の地域文化を創る会」が組織される。市民23人が参加した。

では、どう市民に参加してもらうか。これがまず倉田氏に課せられたテーマである。
倉田氏がまず実践したのは基本構想づくり。創る会と一緒にワークショップを開いたり、視察や市民アンケートなどを実施したりして構想をまとめ上げていった。市から創る会への要望は、美術館を入れてほしいということと予算的なものだけ。あとはすべて創る会の主導で進んだことは特筆すべきことである。

ワークショップを中心に基本構想をまとめ、これをもとにプロポーザル方式による設計者選定を実施した。8社による公開ヒアリングなどを経て選ばれたのが古谷氏を代表とするNASCA。01年1月のことだった。「人々の交流の場をつくる」を意図した提案は、駅からアプローチし易い場所に日常的に市民がよく利用する図書機能を配置していること、駅のプラットホームに平行してプラットホームと同じレベルに市民が集まる空間が配置されているといった点を高く評価された。

ここからは古谷氏が講演を引き継いだ。6月からは古谷氏も加わり基本計画策定委員会の検討がスタート、4つの部会を中心に議論し、02年1月に基本計画として決定されることになる。

古谷氏によると、「施設のプランは、何度も修正されプロポーザル段階からかなり変わったものになりました」。それはすなわち、市民との協働の足跡でもある。納得し合うまで徹底的に議論し合い、設計に反映させていった。

市民参加は基本計画づくりで終わったのではない。完成後の管理運営を検討する管理運営計画委員会へと引き継がれていく。管理運営計画を練り上げるための組織だが、平行して進む設計に対しても、細かな意見を出しながら市民の声を伝えたのである。

最終的には、可変性の高い大ホールと、小ホール、図書館、美術館などで構成した。それぞれの施設の垣根を取り払い、開放的な空間だ。ホールやギャラリーのロビーを共有することで、市民がふれあい交流できる空間となっている。駅のコンコースから直接アプローチできるのも魅力の1つ。駅のホームに平行するガラス貼りの外観は、駅を利用したり通過する電車の乗客にも気になる存在だ。

「管理運営計画の会合だけで70回以上。創る会の会合などを加えると、市民が参加した議論の場は、優に100回を超えました」(倉田氏)。

ともすれば形だけの市民参加の施設づくりが多い中で、これほど市民主導型で進められるのは、極めて稀だ。茅野市民館は、市民参加の公共施設づくりのモデル的な施設といってよい。

倉田氏は、茅野市民館での経験をもとに、市民参加型の公共施設づくりの原則として大きく5つの点を提言した。

まず第1は、形式的な参加ではなく、パートナーとしての市民参加であることだ。第2は多様な利害関係の市民の参加の必要性。ここではコアとなる人材の発掘と育成が重要になるという。第3は市民参加のプロセスのデザイン。市民が参加するだけに、従来の設計プロセスに加えた検討時間が必要になるという。第4は情報提供とプロセスの公開性。直接参加している市民以外の人たちの参加機会の必要性を指摘する。5つ目は、公式な手続きと市民参加の手続きの整合。茅野市民館でいえば、創る会やワークショップの位置づけと議会などの決定権限を明確にしておくことが必要という。

最後に倉田氏は、こう締めくくった。
「市民が参加すれば、建築家は必要ないのではないかいう意見もあるかもしれませんが、それは逆です。意味のある市民参加をするためにも、全体をリードしてくれる建築家が必要です。そのことを実感しました」

茅野市民館のグランドオープンは10月。管理運営は民営化され、株式会社「地域文化創造」が設立された。管理運営改革委員会を通じた市民との連携の成果である。
(浜)


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